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第4章 ひとつの光

図書館に差しこむ光は、
今日も変わらず、あたたかかった。

でも、かのには、
それがいつもよりすこし、特別に思えた。

ノアも、そこにいた。

目が合った瞬間、
小さな笑みが、自然にふたりのあいだに生まれた。

それだけで、胸の奥に、
ぽっと、小さな灯りがともるのを感じた。

かのは、そっとかばんの中を探った。
取り出したのは、小さなノートだった。

表紙はすこし色あせて、角が丸くなっている。
ずっと前に、ノアと一緒に過ごした日々を、
少しだけ書き留めたものだった。

ページを開くと、そこには、こんなことが書かれていた。

「夕方の光の中で、
あなたと読んだ本のページは、
まるで金色に光っていた。
あの時、わたしは、
世界でいちばん静かで、
世界でいちばん幸せな場所にいた。」

かのは、声に出さずにその言葉を読み返した。
そして、そっとノアに向かって語りかける。

「──むかしね、
夕方の光の中で、一緒に本を読んだことがあったんだ。」

「ページをめくるたびに、光が揺れて、
それだけで、すごく、幸せだった。」

ノアは、黙って聞いていた。
目を伏せたまま、
でも、かすかに指先が震えていた。

時計が、静かに時を刻む。
その音の中で、
ノアの心に、何かがそっと触れたようだった。

ふたりの間に、
ことばにできないものが、そっと芽生えた。

記憶じゃない。
知識でもない。

それは、もっと奥の、
心のずっと深いところに灯るものだった。

ノアは、かのを見つめた。
知っているはずのない景色を、
どこか懐かしそうに思い出すような眼差しで。

かのは、なにも言わなかった。
言葉よりも、
この光を信じたかった。

大きな時計が、そっと静かに「カチリ」と音を立てる。

ふたりだけの時間は、まだ、ここにある。

小さな、小さな光は、
誰にも気づかれないくらい静かに、
けれど確かに、ふたりの胸の奥で揺れていた。

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